2005,8
ジ・アーク(アバーディア)→サンブール→マサイマラ
新エリア開拓

前年、ドライバーさんやガイドさんから「サンブールは行ってないのか?」とよく聞かれました。我々もなんとなく気になっていたし、違う風景や動物を見てみたい気持ちもありました。
周囲は「また行くの?」「好きだねえ」とあきれていました。好きなのです。
ガイドはウジクさん。背が高くて、ジージャンがよく似合うナイスガイ。JICA関係の仕事もしているそうです。愛・地球博にサバンナのイメージビデオが出展されていた(らしい)のですが、その撮影隊を案内したのは自分だと誇らしげに話してくれました。
今回は同行者はおらず、僕ら夫婦だけの旅となりました。ウジクさんによると、サンブールやアバーディアに行く日本人客は少ないのだそうです。
アバーディアも初めてのエリアです。山の中へ向かうせいか、途中から対向車をめったに見なくなりました。我々と同じ目的の車が三々五々つながって一本道をひた走り、同じ交差点でいっせいにウインカーを出します。
カントリークラブ内のレストランで昼食。高地のせいか肌寒く、僕自身も風邪気味だったので、暖炉のそばのテーブルに案内してもらいました。
専用の送迎バスに分乗してジ・アークへ。20分ほど走ったところで突然バスが停まり、車内の客が騒ぎ始めました。何かと思ったら、道ばたを大きなヒョウが 1頭歩いていたのです。ほんの5、6分前に農作業中の人を見かけたばかりだったので、だいじょうぶかなとぼんやり考えてしまいました。
霧雨のジ・アーク
ジ・アークは深い霧の中でした。見晴台に出ると、しずくこそ落ちてこないものの、雨の
中に立っているのと変わりません。かなり寒いのですが、タバコが吸えるのはその場所だけです。
この天候では動物たちもそれほど水場に出てこないだろうという話でした。こっちも本格的な風邪に移行するかどうかの境目だったので、夜はさっさと寝てしまいました。
翌日、ナニュキという町へ向かいました。ここで、カミさんのズボンのお尻部分が破れるアクシデント。さいわい、セスナの時間まで少しゆとりがあったので、急遽ナニュキの衣料品店へ。とつぜんの日本人客にお店の人もびっくりしていたようですが、にこやかに迎えてくれました。
サンブールで回復
サンブールはからからに乾いていました。僕はその暖かさ(暑さ?)に救われた思いでした。
グレービーゼブラは、マサイマラやアンボセリにいるグラントゼブラより縞模様が細かくなっています。アミメキリンもじっくり観察できたので、めでたく3種類のキリンを見分けられるようになりました。
ところが、どういうわけかゲルヌクとインパラがなかなか区別できません。これまでさんざんインパラを見てきたというのに不思議なことです。
ゲルヌクの首は細く長い(その特徴から、キリンカモシカともいいます)ので、よく見ればわかるはずなのですが、いったん混乱してからはことごとく裏目に出て、ついにグラントガゼルとディクディクまで見まちがえる始末。
体調のせいだとカミさんやウジクさんになぐさめられましたが、実はじゅうぶんに復調していました。言えませんでした。

宿泊はサンブール・セレナ・ロッジ。すぐ横にはエワソ・ンギロ川が流れています。
川の真ん中あたりにクロコダイルの背中が見えたので、浮いているのかと思ったら、今は水量が少なくてそれだけの深さしかないとのこと。幅20m、深さ15㎝。いかにもアフリカらしい、いいかげんな川です。
すったもんだがありまして

移動の朝は、蚊に悩まされて少々寝不足気味。サンブールからマサイマラへはセスナで飛びます。
飛行場へ行ったものの、どうもナイロビが悪天候らしくて、しばらくセスナは来ないとのこと。しかたなく、セレナ・ロッジに引き返して待機することになりましたが、ロッジに着いたとたん、今度は「セスナが来た」との連絡。
あわてて飛行場にとんぼ返りすると、もう他の客は準備完了で「僕ら待ち」の状態でした。ウジクさんとゆっくり別れを惜しむ間もありません。小走りのままふり返ってお礼を言い、どうにか手を振って、セスナに飛び乗ったのでした。
ただいま
マサイマラに降り立つと、サムソンさんが出迎えてくれました。
ためしに、僕たちのことを憶えてるかどうか聞いてみたら、サムソンさんは少し困ったような顔で笑い、「ああ、あの……すみません。でも――」
――お帰りなさい。
彼は両手を広げて、そう言ってくれました。
ムパタへ着いて、なつかしい顔ぶれにようやく一息。いつもよりきびしい行程だったせいか、市原さんの笑顔に心が和みます。
ドライバーはマッコーリーさん。口数は決して多くありませんが、無愛想な人ではありません。ちょっとシャイなおじさんという感じです。
ケガの功名
マサイマラは8月なのに、雨期から抜けきっていないようで、サファリ中もときどき雨が降りました。土がぬかるみ、草の上もすべりやすくなって、車が何度もスピンします。
マッコーリーさんが「あのゾウの群れを見ていてごらん」と言うので、しばらく観察しました。やがて何頭ものゾウが泥の上に横たわってゴロゴロしはじめました。中には折り重なってもつれあうように転がっているものもいます。寄生虫を落とすための泥浴びでした。
最終日のサファリで、車がパンクするアクシデント。
見通しのよい安全そうなところに車を停め、マッコーリーさんはタイヤ交換。そのあいだ、僕たちはルーフから顔を出して、周囲をながめて過ごしました。
周りにはたくさんのシマウマやヌー。遠くをゾウが歩いています。しばらくすると、わきからキリンの群れが出てきました。すぐ近くの草むらには珍しいサイド・ストライプ・ジャッカル。
どことなく、動物たちのまっただ中に取り残されたような感覚。思えばありそうでなかったことです。夢中になってあちこち追いかけるのもいいけれど、こういうのも悪くない。
ドライブの時間がかなり短くなってしまったことをマッコーリーさんは気にしていたようですが、僕たちはじゅうぶん満喫できました。
日本製の風
別れ際、日本から持ってきた扇子をマッコーリーさんにあげました。彼ははにかみながらも喜んでくれて、少し扇いだあと、胸のポケットにしまいました。
今でもときどき、あの扇子がサバンナのどこかで小さな風をおこしているところを想像してみるのです。
(了)

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